日本は現在「超高齢社会」を迎えています。2017年時点の平均寿命は、男性が約81歳、女性が約87歳とかなり高齢になっていて、まだ伸び続けています。さらに認知症患者人数もどんどん増え、2012年には460万人、2025年には5人に1人が認知症患者になるといわれています。
一方介護職は現在も人材不足の状態が続いています。上記のような未来を考えた時に、毎年6万人程度の人材を増やしていかないと足りなくなるといわれておりますが、人材不足の原因の1つに給料が安いというネガティブなイメージが強くある為なかなか増えません。
国も介護職を増やす為、介護職員の処遇の改善を図る為に「介護職員処遇改善加算」を創設し、賃金の改善を行っていて、今後も引き続き処遇改善が行われていくことが予想されます。そこで「処遇改善加算」について、必要な要件は何なのか?対象は誰なのかなど、理解を深めていきましょう。これから介護職を目指す方も参考にしてください。
Contents
「介護職員処遇改善加算」の目的と概要
目的
介護職員の安定的な処遇改善を図るための環境整備とともに、介護職員の賃金改善に充てることを目的に創設された加算です。2011年まで実施されていた介護職員処遇改善交付金を引き継ぐ形で、2012年に開始され、キャリアパス要件及び職場環境要件が定められています。介護職員処遇改善加算には、「加算Ⅰ」から「加算Ⅴ」まで5段階に分けられています。その中で申請できる加算区分は、どの要件を満たしているかによって異なります。
介護職員処遇改善加算に5区分
加算Ⅰ 介護職員ひとり当たり37,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件Ⅰ,Ⅱ,Ⅲのすべて+職場環境等要件を満たすこと
加算Ⅱ 介護職員ひとり当たり27,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件ⅠおよびⅡ+職場環境等要件を満たすこと
加算Ⅲ 介護職員ひとり当たり15,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件ⅠまたはⅡ+職場環境等要件を満たすこと
加算Ⅳ 介護職員ひとり当たり13,500円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件ⅠまたはⅡ+職場環境等要件共に満たさない
加算Ⅴ 介護職員ひとり当たり12,000円/月の加算を取得できる
条件はキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱも職場環境等要件も満たさない
制度上の支給の対象職員は、「現場で実際に介護業務を行っている人」とされ、非常勤、常勤といった雇用形態や資格の有無などは関係ありませんが、「介護職員処遇改善加算」によって賃金が改善されるのは介護職員のみで、介護施設の勤務していても、他の職種(看護師、事務員、調理師など)は手当の支給や給料アップの対象職員に含まれておりません。
みんな貰っているの?どうすれば貰えるの?
2018年の厚生労働省の調査結果では、約90%の介護事業所が介護職員処遇改善加算の取得をしているとの結果が出ています。しかし、10パーセントの施設は取得をしていないということです。ほとんどの介護施設がこの制度により給料がアップしている中、自分の働いている事業所が取得をしていない場合、なぜ出来ていないのかを確認してみてもいいかもしれません。また、これから介護施設で働こうと考えている方は、希望の施設で加算の取得をしているかどうかの確認をするようにしましょう。もう一つ注意が必要なことは、働く場所です。病院の看護助手などをされている場合は、医療保険の為「介護職員処遇改善加算」の取得は出来ません。取得するには、介護保険施設で働くことが必要になりますので、自身の勤めている施設、もしくはこれから勤務を希望する施設が、どんな施設なのかをきちんと理解して働くことが大切です。それでは実際に、どうすれば貰えるのかというと、上記でも少し触れたように、「キャリアパス要件」及び「職場環境等要件」を満たす必要があります。
キャリアパス要件
キャリアパス要件は、その事業所で働く介護職員のキャリアパスをどのように整備しているか?
要件Ⅰ:職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をする。
要件Ⅱ:資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設ける
要件Ⅲ:一定の基準に基づいて昇給する仕組みを設ける
職場環境等要件
職場環境要件は、職場環境の整備・改善など、賃金に関わること以外の処遇改善への取り組みを指します。以下それぞれの区分について、ひとつ以上の取り組みをしている必要がありますが、すでに取り組みをしている場合は、新しく行う必要はありません。
・介護職員の資質向上について取り組んでいるか
・労働環境や処遇の改善について取り組んでいるか
・その他(地域交流や非正規職員の正規職員登用など)
簡単な流れとしては
1. 介護事業所が、介護職員のキャリアアップの仕組みや、職場環境の改善計画を立て、それらを都道府県や市町村などの自治体に報告。
2. その報告をもとに、自治体が介護報酬に上乗せ費用を支給
3. 介護事業所が、支給されたお金を介護職員へ支給
※支給後に実績の報告書を提出する必要がある為、加算に相当する処遇改善がなされていなかったり、算定要件を満たしていなかったりした場合、加算分は不正受給と見なされて返還となりますので十分注意しましょう。
2019年創設 「特定処遇改善加算」についても簡単に解説
対象の職員
「特定処遇改善加算」の場合、まず経験・技能のある介護職員を定義した上で、すべての職員を3つのグループに分けます。
A:経験・技能のある介護職員 勤続10年以上の介護福祉士が基本ですが、他法人での経験を含めて数えたり、事業所の能力評価で技能を勘案することで、同じ法人で10年でなくとも対象と出来ます。
B:その他の介護
職員 A:経験・技能がある介護職員以外の介護職員
C:介護職員以外の
職員 介護職員ではない、その他の職員を指しますA,B,Cの対象職員へどのように分配するかは、事業所内で設定することが出来ます。この加算では、Aの介護職のうち1人以上は、月額8万円の賃上げ、または年収440万円までの賃金増を行う必要があります。しかし、加算額の少ない場合や全体の賃金水準が低く、すぐに引き上げられない場合などはこの限りではありません。どのような形で賃上げを行うのかを、事業所内でよく検討する必要があります。
まとめ
介護職員の処遇が低いということは、ただ単に給料が安いというだけの問題ではありません。
1. 介護職員の処遇(給料、職場の環境など)の低下
2. 退職者が増えて職員の不足となる
3. サービスの質が低下する
4. 利用する人の減少
処遇の低下が、事業所の質を落とし負のスパイラルに陥ってしまいます。そうならないために、「介護職員処遇改善加算」など活用できる制度はぜひ活用していただき、これからも介護職員の待遇がどう改善されていくのかしっかりとチェックしながら、結果的に介護業界全体の質の向上へ向かっていけるようにしましょう。