
特定技能「介護」の外国人材確保は、施設運営の重要な課題となっています。
しかし、「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」「定着率が上がらない」といった悩みを抱える現場は少なくありません。
本記事では、外国人スタッフの長期的な活躍を促し定着率を高めるコツや、キャリアの最終目標ともいえる「永住権」取得の仕組みまでを解説しています。
特定技能「介護」の入職・離職状況
特定技能「介護」とは、介護業界の人材不足に対応するために創設された制度です。1号と2号の二種類あり、指定された試験に合格して一定の要件を満たすことにより、専門知識や技術を活かして日本で働けるようになる仕組みです。
この章では、現在の介護業界における特定技能外国人の実情について解説します。
特定技能「介護」の受け入れ状況
【介護分野の特定技能外国人在留者数の推移】
| 年度 | 人数(単位:人) |
| 2019年12月末 | 19 |
| 2020年12月末 | 939 |
| 2021年12月末 | 5,155 |
| 2022年12月末 | 16,081 |
| 2023年12月末 | 28,400 |
| 2024年12月末 | 44,367 |
特定技能「介護」の離職状況
出入国在留管理庁が公表している資料によると、特定技能「介護」の離職率は10.6%でした(2019年4月~2022年11月までの類型)。
その一方、2022年度現在の状況を調べた 「令和4年度介護労働実態調査」では、介護職員・訪問介護職員の離職率は14.4%となっています。
このことから、直接介護業務に携わるスタッフの離職率としては、特定技能「介護」における外国人労働者の方が低いと言えるでしょう。
また、まれに報道される「外国人労働者が失踪する(行方不明になる)」という問題についても、 特定技能「介護」については行方不明者全体の6.6%と、かなり少なくなっています。
なお、自己都合により退職した特定技能外国人全体の退職後の状況としては、以下の通りとなっています。
【特定技能外国人 退職後の状況】
| 在留状況 | 人数(人) | 構成比 |
| 帰国 | 6,061 | 31.4% |
| 特定技能での転職 | 5,852 | 30.3% |
| 別の在留資格へ変更 | 2,915 | 15.1% |
| その他(求職活動中、在留資格変更許可申請中など) | 4,471 | 23.2% |
特定技能外国人のよくある離職の要因
特定技能外国人が離職に至ってしまう要因は、大きく以下の3つがあると言われています。
- 労働条件や待遇への不満
- 言語・文化の壁
- 生活面の困難やサポート不足
逆説的に考えれば、上記の3つを意識して労働環境を整えれば、特定技能外国人の離職を抑えて定着につなげることができると言えるでしょう。
そこで、この章では特定技能外国人が離職に至ってしまう要因について具体的に解説します。
労働条件や待遇への不満
労働条件や待遇への不満で具体的に考えられるのが、「賃金や昇給への不満」「長時間労働や業務内容に関する肉体的・精神的負担」「居住費や生活費などの経済的負担」の3つです。
【賃金や昇給への不満】
もともと介護業界は、他業種と比較して平均賃金が低いという点が社会問題として指摘されています。実際に専門的な知識と技術を要する特定技能として働き始めても、賃金が期待したほど上がらない、あるいは日本人同僚との賃金格差を感じることが不満につながるでしょう。また、昇給制度が不明確であったり、努力が給与に反映されないと感じたりするケースもあります。
【長時間労働や業務内容に関する肉体的・精神的負担】
人手不足の現場では、外国人労働者本人が想定していた以上に過酷な労働環境となる場合があります。当初の説明と異なる重い業務負担や精神的ストレスを感じ、体力・精神的な限界から離職につながることがあるでしょう。
【居住費や生活費などの経済的負担】
手取り額は十分に見えても、勤務先が用意した住居の家賃が高額であったり、光熱費などの生活コストが高くなってしまったりする場合もあります。外国人労働者は、母国に住む家族への仕送りも考えて職に就いている人もいます。
実質的な経済的利益が少ないと感じれば、より良い条件を求めて転職する動機になります。
言語・文化の壁
介護の仕事をする上で特に求められる能力のひとつに「コミュニケーション」があります。特に認知症の方の支援に携わる際に求められるコミュニケーション力においては、言語や文化の違いが大きな壁として立ち塞がるのが実情です。
【言語の壁】
外国人材の多くは日常会話レベルの日本語能力を習得しています。しかし、介護現場においては、以下のような場面で言語の壁を感じることがあります。
- 専門用語:介護・医療の専門用語は難解
- 敬語:丁寧語・謙譲語の違いなど、日本人でも使い分けが難しい
- 方言:地域により大きく異なる。文字にすると同じでも、意味が異なることもある
- 言葉のニュアンス:「冗談」や「会話の流れによる解釈の違い」等の理解が難しい
- 緊急時の情報伝達:迅速かつ正確な情報伝達が困難
【文化の壁】
日本の「介護」は、身体介助だけではありません。日本の生活文化・生活歴・価値観の尊重などに深く根差した、心配りが必要になる場面が多々あります。以下のような場面で、文化の壁を感じることがあるでしょう。
- 生活習慣の違い:日常生活上の習慣や、清潔感に対する意識の違い
- 利用者等との関係性:「おもてなし」の精神や非言語的コミュニケーションの理解
言葉や文化の違いによるストレスは、仕事への自信を失わせたり、孤立感を深めたりし、結果として離職の原因となります。そのため、入国後や配属後に、日本語や日本文化に関する十分な研修を実施し、さらに職場で個々の状況に応じたきめ細やかなサポートを行うことが極めて重要です。
生活面の困難やサポート不足
慣れない日本での生活は、仕事以外の部分で大きなストレスとなります。仕事以外の日常生活において生じる以下のような課題についてのサポートがなければ、日本での生活をあきらめてしまう可能性があります。
- 行政手続き:住民登録や税金、保険といった役所での複雑な公的手続き
- 住居と契約:契約に必要な連帯保証人等の手続きや、日本の売買契約に関する習慣
- 医療:体調不良時の通院先や医療保険制度、自己負担額の問題等
- 生活ルール:ゴミの分別、近隣住民への配慮、地域特有の生活ルール等
- 買い物:どこに何が売っているのか分からない、物価が母国と異なる等
- 交通手段:バス停や駅の場所、公共交通機関の利用方法、目的地への移動方法
配属先が都市部なのか・地方なのかも切実な問題です。都市部であれば徒歩圏内である程度生活が成り立ちますが、地方の場合は公共交通機関も限られるため、気軽に出かけることが非常に困難です。外国人材が気軽に相談できる窓口が明確でない(適切に対応してくれない)ことは、彼らにとって多大なストレスとなります。孤独感も徐々に募り、勤務先での生活に限界を感じることになるでしょう。
このため、定められた義務的支援を形式的に終わらせるのではなく、個別かつ継続的な生活支援が定着率向上の鍵となります。
特定技能「介護」の外国人材の定着率を高めるコツ

外国人材の定着率を高めるためには、実際に身柄を引き受ける前から彼らを受け入れるための職場づくりが非常に重要になります。また、期間を定めず働いてもらえる環境を作るため、永住権の取得を支援することもポイントです。
ここで、外国人材から長く働いてもらえるコツを、「環境づくり」と「永住権取得」の2つに分けてご紹介します。
特定技能「介護」の外国人材の定着率を高めるための職場づくり
特定技能「介護」の外国人材の定着率を高めるためには、介護現場の特性に応じた職場環境を作ることが重要です。特に大切なのは、以下3つのポイントです。
- 労働条件や待遇・給与の見直し
- 日本語教育やコミュニケーションを強化する
- 生活面のサポート環境を整える
これらの施策を包括的に実施することで、外国人材は安心感と仕事へのやりがいを感じ、職場に対する愛着を深めることができるでしょう。その結果、高い定着率の実現に繋がります。そこで、職場づくりのポイントについて具体的にご紹介します。
労働条件や待遇・給与の見直し
日本人はもちろんですが、外国人材についても労働条件や待遇・給与の見直しをすることは最も大切です。以下の3項目が、最も重要である理由です。
【経済的な安心とモチベーションの維持】
特定技能制度における給与面については、 「日本人と同等以上の報酬」を保障しなければならない旨が定められています 。
日本人と同等以上の給与水準にすることは、外国人材が日本で働く最大の目的である経済的な安定に直結します。
給与が低い、または不透明な場合、母国の家族に対する仕送りや将来設計が困難になり、早期の転職・帰国につながります。適正な報酬は、彼らの貢献を正当に評価し、業務に対するモチベーションと責任感を維持する基盤にもなります。
【公平性の担保と離職リスクの低減】
賃金や諸手当(夜勤手当、通勤手当など)において、外国人職員と日本人職員との間に不公平差を生じさせてはなりません。
「 外国人だから」という差別意識につながり、職場への不信感や不満を生じさせます。これは、職員の定着率を著しく低下させる最大の要因となります。
この問題を解決し、離職リスクを大幅に低減するためには、明確かつ公平な評価制度の導入が不可欠です。この制度に基づき、昇給や賞与の仕組みを見直すことで、職員からの職場への信頼を高めることができるでしょう。
【人材獲得競争力の強化】
現在、介護人材の需要は国内外で高まっています。外国人材の中でも、よりよい給与や就労環境を求めて別の勤務先を探す方がいるのも事実です。つまり、外国人材は働く場所を「選ぶ側」になりつつあります。
労働条件や待遇が優れている施設は、選ばれる事業所となり、質の高い人材を継続的に確保できます。逆に、待遇が劣悪な施設は悪評が広がりやすく、人材が集まらない・定着しないという負のスパイラルに陥るでしょう。
日本語教育やコミュニケーションを強化する
介護の現場では、質の高いケアを提供し、利用者の容態変化を正確に把握して報告し、チーム内で円滑に連携・情報共有を行うために、日本語能力が極めて重要です。
日本語能力が不足していると、業務上の指示の誤解や記録作成時のミスにつながるリスクが高まり、外国人材は常に業務への不安やストレスを抱えることになります。また、利用者や同僚との良好な人間関係の構築も難しくなり、孤立感を深めてしまうことにもなりかねません。
これらの課題を解決し、外国人材が自信を持って質の高い業務を行うためには、継続的な日本語教育が不可欠です。
日本語教育は、安心して働き続けられる環境を整備するための土台となります。コミュニケーション能力の強化は、安全で質の高い介護サービスの提供と、外国人材の長期的な定着を実現するための、必要不可欠な投資と言えます。
生活面のサポート環境を整える
特定技能外国人は、異文化・異国での生活と仕事という二重のストレスに直面しています。このため、支援体制を構築する際は、「生活不安の解消と孤立の防止」「異文化摩擦とミスマッチの調整」の2点を特に重視することが重要です。サポート体制の充実は、「会社が自分を大切にしてくれている」という信頼感につながり、長期的な定着意欲を大きく高めます。
【生活不安の解消と孤立の防止】
住居や銀行口座開設、役所の手続き、医療機関の利用など、日本での生活基盤を整える過程で多くの不安を抱えます。
慣れない土地で、初めはどこにどんな機関やお店があるのかも分からないだけでなく、仮に土地勘を身に着けたとしても移動手段に困ることもあるでしょう。これらを放置すると、孤立感が深まり、仕事に集中できず早期離職につながります。
登録支援機関(紹介元)と連携し、母国語での相談窓口を設けることがポイントです。また、配属先の職員が勤務時間を使って行政手続きや買い物のために車を出すなどの配慮も喜ばれます。
いつでも安心して相談できる体制を整えることが、働ける土台作りに直結します。
【異文化摩擦とミスマッチの調整】
介護に対する価値観や、職場での慣習(報告・連絡・相談のルールなど)の違いから、日本人職員との間に文化的な摩擦が生じやすいです。
このギャップを埋め、スムーズな職場適応を促すためには、定期的な面談やメンター制度の導入が有効です。これにより、職員の悩みを早期に把握し、職場との円滑なコミュニケーションを支援することが重要です。
小さな懸念や不満が深刻な問題に発展するのを未然に防ぎ、職員が安心して働ける環境を作りましょう。
特定技能「介護」の在留資格を持つ外国人が永住権を取得するには?
外国人材が永住権を取得することは、すなわち期間を定めずに働けることを指します。
長期に渡って安定して働いてもらうためには、勤務先が一丸となって永住権取得を後押しすることが大切です。
特定技能「介護」の在留資格をつ外国人材が永住権を取得するためには、以下の手順で要件を満たす方法があります。
- 介護福祉士の国家資格を取得する
- 在留資格「介護」で5年以上働き、日本に10年以上滞在する
最後に、特定技能「介護」の外国人材が英受験を取得する方法について、ご紹介します。
手順1 介護福祉士の国家資格を取得する
特定技能「介護」の外国人材が最も確実に永住権を取得できる方法は、介護福祉士の国家資格を取得することです。
特定技能「介護」で就労している外国人材も、一般的な「実務経験ルート(実務経験3年+実務者研修修了」にて、介護福祉士の受験資格を得ることができます 。
介護福祉士を取得すると最長5年しか就労期間が認められていない「特定技能1号」から在留期間更新回数の制限がなくなる「在留資格『介護』」に切り替えることができるため、長期に渡って介護の仕事に就くことが可能になります。
手順2 在留資格「介護」で5年以上働き、日本に10年以上滞在する
介護福祉士を取得して「在留資格『介護』」に切り替えた後は、在留資格「介護」で5年以上働き、日本に10年以上滞在することで永住権を申請することが可能になります。
滞在期間以外には、以下のような条件を合わせて満たす必要がありますので、詳細を確認しておきましょう。
● 素行が良好であること
● 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
● 罰金刑や禁固刑を受けておらず、公的義務を適正に履行していること
● 公衆衛生上の観点から有害となる恐れがないこと 等
永住権を取得するためには「介護福祉士の取得」と「在留資格『介護』での就労が5年以上かつ日本滞在10年以上」が主な条件となります。長期的な視点で外国人材をフォローしていくのが重要となるでしょう。
まとめ
ここまで、特定技能「介護」の外国人材の定着率を高める方法についてご紹介してきました。
介護業界における人材不足は、もはや社会問題として捉えられています。介護人材の不足をスムーズに補うためには、日本語能力が高く学習意欲に富んだ質の高い特定技能「介護」の人材を採用することが重要です。
現在の法規則の中で、採用した特定技能の外国人材から長期的に働いてもらうためには、介護福祉士国家試験の合格が必須条件となっています。介護福祉士に合格するためには、まず「労働条件や待遇への不満」「言語・文化の壁」「生活面の困難やサポート不足」といった課題を解消し、介護現場に定着してもらうことが必要です。
「外国人だから」と構えるのではなく、この人材不足な業界に来てくれた将来有望な人材として捉え、丁寧にきめ細かく支援していくことがポイントになります。
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[参考]
厚生労働省「外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について(p.11)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001478533.pdf
出入国在留管理庁「特定技能制度の受入れ見込数の再設定(令和6年3月29日閣議決定)(p.1)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001417998.pdf
厚生労働省「外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56271.html
厚生労働省「外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について(p.14、15)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001478533.pdf
厚生労働省「外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について(p.3、12)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001478533.pdf
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議資料(p.10)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001390131.pdf
公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度 介護労働実態調査結果の概要について(p.2)」
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/2023r01_chousa_gaiyou_0821.pdf
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議資料(p.11)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001390131.pdf
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議資料(p.10)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001390131.pdf
e-gov「特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(第一条の三)」
https://laws.e-gov.go.jp/law/431M60000010005/
e-gov「特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(第一条の四)」
https://laws.e-gov.go.jp/law/431M60000010005/
社会福祉振興・試験センター「介護福祉士国家試験 受験資格(資格取得ルート図)」※注意2参照
https://www.sssc.or.jp/kaigo/shikaku/route.html
厚生労働省「外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について(p.3)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001478533.pdf
出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン(令和7年10月30日改訂)」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan50.html
参考記事・サイト紹介
静岡県限定の看護師求人・転職情報| ふじのくに静岡看護師求人ナビ